だんご虫ヒーロー。
【side 紗奈】
『…紗奈、あなたは大きくなったらきっとパパの遺伝子を受け継いで美人になるわね』
「それを言うなら、お前の遺伝子を受け継いで美人になるの間違いだろ?」
『あら、今まで私のことを美人なんて言ったことないくせに、こういう時は美人って言ってくれるのね?』
「…ったく、お前はいつも痛いところをついてくるな。ミーシャ」
『…ふふ。紗奈、あなたは私のように賢く美しい子に育つのよ?大丈夫、何があってもあなたは私達が守るからね』
「…ん、…」
ゆっくりと目を開けると最初に目に映るのは、自分の部屋の天井。
あたし退院して、家に戻ってきたんだった。
まだ重い体を起こして、ボーッと部屋を見渡す。
さっきのは何だったんだろう。
昔の夢だとしても、あたしの記憶にはない。
それに視界もボヤけてて、誰がいるのか分からなかったし。
でも言葉からしてあの夢で誰が話していたのか、予想はつく。
今は娘が入院したというのに、いつもよりお金を多く振り込むだけでお見舞いにも来やしない最低の父親。
そしてあたしの記憶にはないけど、あたしよりも明るい赤髪をした女性。
現実は残酷だけど、あたしにもそんな温かい過去があったと思うと自然と頬が緩んだ。
あたしはそのちょっとした幸せを噛みしめ、学校へ行く準備を始めた。