サクラ咲く
「かの〜、資料を会議用に15部ずつコピーしてこ〜い。」



……誰に向かって言ってるの、この男。



「あー、それとコーヒーな〜。」



……あたしは雑用係か。



「かの〜、かーのーこー、返事。」


「社員を名前で呼ばないでください、苗字でお願いします。
用件は了解です、如月専務。」

立ち上がり差し出されていた書類を受け取る。


コピー機はひとつ下の階にあるため、度々コピーを用事として言いつけられている。



「専務とか他人行儀だなぁ。
かのこ、名前で呼べよ。」


書類を掴んだ手をギュッと握られる。



「た・い・と。泰斗、知ってるだろ、言えよ。」



「遠慮します。
社長に言いますよ、いいですか?」



チラリと見下ろすと専務もニヤニヤと笑ってる。



…あぁ、嫌な男。



「言えば?大輔は知ってるから問題ない。それより。この前あげた指輪、なんで付けない?」



サラリと指をなぞる無骨な手。



ぞくりと背中を走る感情は無視する。



「貰う理由がありません、だからお返ししますって言いませんでしたか?」



…イライラが爆発しそうよ。


「つれないな、婚約者に指輪をあげるのに理由がいるのか?」



…その婚約者ってセリフ…




「やかましいわよ!
誰が婚約者よ!あんたと兄貴で勝手に決めた事でしょ⁉︎
あたしは納得してないって何回言わせるのよ!」





怒鳴りつけられても笑ってる、嫌な男…。




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