サクラ咲く
如月のマンションへ戻り、救急箱を片手にかのこは途方にくれていた。


文字通り、凹んだ如月が厄介だった。



「如月さん、怪我の手当てしましょう?」


何度言ってもソファに沈み込むように座ったまま動かないのだ。



「如月さん…泰斗さん、お願いだから、手当てさせてください。ばい菌が入ったら大変だし…シャツに付いた血も早く洗わないと落ちなくなってしまいます。」



何度目かの言葉にようやく顔を上げた。


「ごめん…プレゼント駄目にして…。」



やっと言葉を発したと思ったら…。

普段Sっぽいことを言う人なのに、凹むとこんな風になるのね。
厄介だわ。



「今度はまた違う感じのをプレゼントします。楽しみにしててくださいね。」




ソファの前に、膝をついて座り顔を覗き込む。


「何だったら、これから毎年、泰斗さんの誕生日にカフスをプレゼントしたら、たくさんの宝物が出来ますね。」


ふわりと自然に笑みが零れた。


本当にそうなら、なんて素敵だろう。


「その代わり、あたしの誕生日にも何か宝物貰わなきゃ。」


ふふっと笑うと、如月の手を取る。



カフスが当たる位置に傷があった。

出血の割りに傷は深くなさそうだ。



「滲みますけど、我慢してくださいね。」
そう言うと問答無用で消毒液をかけた。



声にならない声がした。

「痛ぇ!優しくやれよ!」
「うるさいわよ!だから滲みるって言ったでしょ!」



顔を見合わせプッと2人とも吹き出した。






「すまん、ホント自分が嫌になる。」

手当を済ませ、シャツに付いた血を洗い流し、手を洗ってリビングに戻ると。



コーヒーが入れてあった。


「いいえ。元はと言えばちゃんと相談しなかったあたしがいけないんです。

ちゃんと話せばよかった…ごめんなさい。」



近づく如月。


怒らせてしまったのだから、謝るだけじゃ済まないのかもしれない。


…そう思っていた。



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