サクラ咲く
「…ん…」




鼻から吐息とも声とも言えないものが零れる。



一瞬にして世界が閉ざされる。



分かるのは…如月にキスされているのだという事だけ。



触れるだけのそれではなく、貪るような、食いつかれるような…そんなキス。



心が追いつかない。



好き、と思ったけど、こんな慣れたキス…したくない。



胸を強く押しやり唇が離れた。




「いや…、こんなの嫌!」



嬉しいのに、泣けてきた。
他の男と疑われ、その腹いせのようなやり方なんて嫌だ。



他の男に触れさせたことも、触れようとしたこともない唇を、噛み付くようにして奪われるなんて。


「かの…」
「馬鹿!」



悔しいから泣き顔は見せない。



飛び出したって追いつかれるし、こんな状態で帰ったら大輔から何を言われるかわからない。



だから。



「こんなやり方嫌に決まってるでしょ!如月さんの馬鹿!」



胸に飛び込む。


「かのこ…」


「ほんと、馬鹿。あたし、あんな誰でもいいから付き合いたいみたいな感じの人、好きじゃないし。
ちゃんとあたしだけを見てくれる人が好きなの。」


背の高い如月をゆっくりと見上げる。


ビックリした顔のまま固まってしまっている。



「ぷっ」


その表情がおかしすぎてつい、笑ってしまう。



泣き笑うかのこを見て、ようやく現実の世界に帰ってきた如月は赤くなった顔を背けた。




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