サクラ咲く
…決意はしたものの。


足踏み状態は続いていた。

きっかけは些細な事。

かのこが会社の取引先の営業マンと雑談していたら、それが気に食わなかったらしい泰斗から帰宅後に嫌味を言われたことだった。


「他の男に、近づくなって話しただろ。」

「近づくなって…仕事の話をしただけじゃない。」

そう答えると、泰斗はあからさまに嫌そうな表情をしてハァ、とため息をついた。

「食事に誘われるのも仕事のうちなら、ベッドに誘われても仕事になるな。」


「…なんっ」


手首を掴まれ引き寄せられた。
見上げた泰斗の顔は引きつった笑顔だった。

「誰にも渡さないと言っただろ。」

「…仕事にならないわ。話してもダメ、近づいてもダメ。あたしは一生を籠の中で過ごさなきゃならないの?」



束縛なのはわかってる。


愛あるゆえの束縛。


「俺に逆らうな。…誰にも渡さない!」


言い放ち、掴んだ腕を引っ張ってかのこをソファに押し付ける。


「逆らってなんかないわよ!いつあたしが他の人に靡いたっていうの⁈
泰斗しか見てないのに!…何なのよ‼︎」


つい、歯痒くて涙がこぼれ落ちる。

仕事なんだから、仕方ない。
仕方ないけど納得できない。

ぶつかり合う感情をおさえきれなかったのは、かのこの方だった。


「要は泰斗はあたしを信用してないって事よね。あたしのまわりにいる男性が皆あたしに好意があって、あたしがそれを許して近づけてるって思ってる!
いい加減にしてよ!

もううんざり‼︎」



腕を振り払い、泰斗の胸を力任せに押して立ち上がる。

悔しくて歯痒くて悲しくなった。


信用されてない自分が。


「あたしのことばっかり言うけど、泰斗だってわかんないわよ。
出張のときだって行った先で誰と何してるかわかんないじゃない。

大輔と一緒で、女から寄ってくるんだから、よりどりみどりよね!」

ずっと不安だった。


泰斗はモテる。


人を惹きつけるその容姿。


手に入れたらお払い箱になるんじゃないか、って。


そんな不安が苛立ちと混ざってつい口をついて言葉になってしまった。



「他に女がいるかもしれないわよね。」




少しの間の後。



表情が消えた泰斗に再び腕を掴まれ、ソファに逆戻りしていた。


寝そべるかのこを組み敷いた泰斗は、怒りをあらわにして、口付けてきた。



「お前は俺のものだ。」



噛み付くようなキスの雨を全身に受け恐怖すら感じるかのこは、意識を手放し快楽に溺れた…。


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