サクラ咲く
怖い。


泰斗に他に女が居たらどうしよう。


出張だって言って、実はその女と出掛けてるだけだったりして…。



そんな不安は毎日あった。


一緒に出掛けても、振り向く周りの女性たち。


あたしの旦那様よ!

見ないで‼︎


束縛したかった。
自分だけ見て欲しかった。


でも、上手く言葉にできなかった。


もどかしくて、悔しくて。

初恋な上、恋愛初心者なかのこにはどうにもできない大きな壁。


泰斗にわかって欲しくて、駄々を捏ねる子供みたいな態度になってしまう自分が嫌いだ。



身体に刻み込まれる愛情を疑う。



こんな淋しい事はない。



「かの…ごめん。」


ソファにぐったりと横になるかのこの背中をゆっくりと撫でながら、泰斗が小さな声で謝罪する。


「イライラを…お前にぶつけても仕方ないのに。ごめん。大丈夫か?」


動かないかのこを不安に思い、背中を向けているかのこの顔を覗き込む。


無表情のまま…涙がこぼれていた。


「…かのこ…。」


ゆっくりと起き上がった細く白い身体。
流れる漆黒の髪。


「…シャワー浴びてくる…」



フラフラと歩くかのこは心がどこか遠くにあるようだった。



泰斗はしまった、と思っていた。


つまらない嫉妬心でかのこを傷つけた。
もっとどっかりと構えて、かのこを守ってやらなければ。



ザーッというシャワーの水音が絶え間無く聞こえてくる。



大丈夫だろうか…。


「かの?大丈夫か?」


すりガラスに映るはずのかのこの姿が見えない。


「かのこ、開けるぞ!」




ドアを開いたバスルームに、かのこの姿はなかった。




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