サクラ咲く
ひたり、ひたりとアスファルトに素足が触れる。



部屋着姿のかのこは、フラフラと歩いていた。



…もうダメ。苦しい。泰斗の愛情を疑ってしまう自分が嫌い。

どうしたらいいの。


泰斗を愛してるのに、それが苦しいなんて。


定まらない視線、ふらつく身体。


ひと気のない道をフラフラと歩いていく。


「かのこ!」


後ろから声が聞こえた。

咄嗟に逃げなければ、と身体が動く。
もつれる足で必死に走る。


「かのこ、待てって!」



腕を掴まれ、振り払おうと暴れる。

「いや!いや、離して!離して!」


がんじがらめになってしまう。


嫉妬と愛情とにがんじがらめになる。


「どこにいくつもりなんだ!うちに帰るぞ?」


なおも暴れると身体が宙に浮く。

担ぎ上げられたのだとすぐに気づいたが、もうどうにも抵抗できなかった。


「離して…もうイヤ…」


力なく担がれたままのかのこが小さく呟いた。


「ちゃんと話そう。俺が悪かった。疑ったりして悪かった…かのこ、頼むからそばに居てくれ。」



歩きながら、謝りながら、泰斗はかのこを抱きしめた。

「嫉妬したんだ…お前が俺以外の男に笑顔で話してるの見て…腹が立ったんだ。わかってるんだ、仕事だから、って。だけど、お前を誰かに奪われたみたいに錯覚してしまったんだ。ごめん、かのこ。出て行かないでくれ…」


肩から降ろされ素足がアスファルトに触れる。
抱きしめられたまま、そうやって話す泰斗の声を聴いていた。


「泰斗…泣いてるの?」



メガネの奥の目に涙。

頬を伝う涙。


「お前がいなくなったら…どうしたらいいのか分からなくなる…。」


それは愛情。



自分だけに向けられた大きな愛。


不器用な彼の最大級の愛情表現。


真っ直ぐ過ぎて、時には棘のように傷がついてしまうけど。



真っ直ぐに、かのこへと注がれる愛。


「泰斗…」


頬に触れると、瞬きした泰斗の瞳から涙が1粒こぼれ落ちた。



「好きよ…でも、どうしたらいいのか分からなくなるの…。怖いの、他の人に取られてしまうんじゃないかって…」


首筋に細い腕を巻きつけ、背伸びして抱きつく。



「お互いに不安なだけだ。
俺はお前を、お前は俺を失いたくないだけ。

愛してる、かのこ。
俺の側から離れるな。俺だけを見てくれ。」

「あたしのそばに居て抱きしめて。あたしだけを愛して…泰斗。」



キツく抱きしめ合うと、ふわりとかのこを抱き上げる。

「靴も履かないで…バカだなぁ。」


お姫様抱っこされて、うちに帰る。


2人だけの世界に。



きっとこれからも沢山喧嘩するだろう。


だけど、それは愛情ある故。

愛を確かめ合うための喧嘩。


「愛してる。」


合言葉のように囁いて。


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