侍先生!
「あ、そうそう。 うちのクラスの奴ら、修学旅行の行き先決めるの時間かかりやがってさー。 結局、京都・奈良っていうヒネリの無い場所になってんけど」


「いいじゃないですか。 奈良と京都、高校の修学旅行以来ですね」


「そやな。まあ、俺は昔から嫌っていうほど行ってたけど。 お前の学年も一緒やってんな。 んで、お前の次の学年から、海外になってん」


「あー。 そうですよね、あれはくやしかったです」


思い出話に花を咲かせていると、せいじ先輩は、途中、思い出したように言った。


「そういえば、みんな、北海道とか沖縄とか、けっこう定番のとこ言ってたんやけど、1人だけ、“滋賀県”って書いてるやつおってん。行きたい所、紙に書いてもらって多数決したから、誰が書いたんか分からんけどな」


滋賀県って、安土城がある…。


「そんなに赤いこんにゃく食べたかったんやろか」


せいじ先輩がそう言うと、俺は笑った。
多分…書いたのは、森本なんじゃないかと俺は思った。


「確か、信長が、鍋の彩を気にして、赤いこんにゃくを作らせたんでしたっけ。 はじめて知りました」


「信長マニアのお前が? 珍しい事もあるもんやな」


せいじ先輩はそう言って笑った。


「一回、食べてみたいですね」


「ほんなら、今度行くか? ローテーションで休みあるやんか、そん時に! …あ、でも男二人なんて寒いからいらんわ」


「それは確かに言えてますね」


笑って、更衣室に入った。
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