侍先生!
よし、食ったか?」


先生は、私が頷くのをみて、自分と私の分の空になった紙カップを近くのごみ箱へ捨てた。


「最後に、あれいこう」


先生が指さしたのは、おばけ屋敷。


「え~。 先生、怖いっていってたじゃないですか」


「ここには織田信長がモデルの蝋人形があるんだってさ。 みてみたいだろ?」


「まじっすか!」


先生は、「まじっす」といいながら、うんうんと頷く。


張り切っておばけ屋敷に向かうが、入口から聞こえる悲鳴…といっても効果音なんだろうけど、それが恐怖心をあおる。


「ほら」


先生は、手をこちらに向けた。


「こわいだろ? つかまっていいぞ」


「…先生が怖いんじゃないですか?」


「怖くないなら、別にいいけどな」


先生は手をひっこめた。


…って、え?ひっこめちゃうの?


私は先生が手をひっこめたのにもかかわらず、無理やり掴んだ。


「こ、こわいです!」


…嘘です。全然怖くないんです。
どさくさにまぎれました。


「うそつけ」


先生はそう言ってフッと笑うと、そのまま先に進んでいった。


手は、繋がれたまま。


私はにやけそうになる顔を、繋いでいない手で叩いた。


…先生には真帆さんがいる。
今日だけだから、あんまり喜びすぎないようにしないと。


後でしんどくなる。
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