侍先生!
ドキドキ、と音が聞こえる。

この音は、私の音?
それとも、先生の音?


私は、そのままずっと動けずにいた。
さっきまで自分を怒りたい、なんて思っていたくせに。


なんだか、もういいやって思ってしまう。
ずっとこのまま、いれたらいいのに…。



…ガタッ!ガタガタ…。


…ん?何の音?


『ガ―――――――!!』


「ぎゃ――――――!!」


私は大きな声をあげて、のけぞった。
先生もビックリして、手を離す。


いきなり出てきて、何かと思えば…そこにはちょんまげの蝋人形がいた。


「の、信長の…おばけ?」


「…みたいだな」


私と先生は顔を見合せて、しばらくして笑った。


私と先生は、おばけ屋敷を出て、大きく伸びをした。
先生の方を、チラリと見る。


さっき、抱きしめられたのは…私の勘違いなんかじゃ、ないよね?と聞く勇気もなく、小さくため息をついた。


「姫条」


先生が私を呼ぶ。


…何、言われるんだろう。とドキドキして、先生の方に体を向けた。


「楽しかったか?」


「はい。 とっても」


「そうか、良かった」


「侍先生は? 楽しかった?」


「楽しかった。 また、デートするか」


また…してもいいの?
デート。


私は嬉しくてはしゃぎたくて、体がムズムズしてきた。


「はい」


ああ、言ってしまった。
いいのかなあ、私。


なんだかんだいって、先生の事…諦められたり、できないんじゃん。
いや、もともと諦めるつもりはないんだけど。


我慢というものを知らないと。
そんな事を思ってても、やっぱり気持ちは正直で…。


本当は、真帆さんとよりを戻してほしくない、強がってるだけなんだ。
そう、感じさせられる。


私は、嘘つきだ。
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