侍先生!
「さむらいだ先生! 質問です!」


…俺の名前に認識されちゃった!?


いやいや、それはマズイ。
侍が好きだし、良い名前だけどそれはマズイ。


俺の担当教科は日本史。
それを知られたら『ピッタリー、ウケル』と高校生に笑い者にされて、教師生活をおくらないといけない。


それだけは避けたい。


「待って! 書きなおすから!」


俺はそう叫んで、サササッと本当の名前を書き終えると、こほん、とひとつ咳をして、みんなの方を向いた。


「…“倖田”海です。 よろしくお願いします。 ええと、さっきのキミ、質問の内容は?」


俺がそう言うと、さっきの女の子は、再び席を立った。


「先生、彼女はいますか?」


…はい?


俺は数秒停止していた。


「プライベートな話はNGでお願いします」


なんて、芸能人みたいに言ってみた。


「じゃあ、担当教科は?」


さっきの子がまだ質問してくる。


「…日本史です」


そう言うと、その子の瞳は宝石のように輝いていた。


…なんなんだ、一体。
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