Toi et Moi
「なあ桂」
昇降口に行くと見せて、ふいに影月が振り返って呼び止めた。
「来月からは先生じゃないんだろ」
僕は頷いてから嫌味を込めて言う。
「円は僕のこと先生だと思っていないだろうけどね」
「じゃあさ」
影月はいつもの笑顔になる。右側だけのえくぼ、きゅっと細くなる目。
「俺のこと、影月って呼びなよ」
つられて僕も笑顔で頷いた。
影月は嬉しそうに昇降口へ向かった。その背中を見送り、僕は司書室へ戻る。足取りは軽い。
だから僕は、影月を影月と呼ぶ。今夜も月は、その表側だけを僕たちに見せて輝いている。