Toi et Moi
入学式の日に、俺は桐を見つけた。
「誰」
その肩を叩いて、顔を見て、俺は人違いだということにやっと気付いた。よくよく考えればすぐにわかることなのに。
「すみません、知ってる人だと思って」
「何かの勧誘」
桐は眠そうな目を俺に向ける。
「いや、本当に、ただの人違いで」
「ふうん」
そのまま欠伸をする。大講堂の前、古くて大きな桜の木が、澄んだ青空に薄紅の欠片を漂わせていた。
次に桐と会ったのは、何かのガイダンス、確か奨学金、の時だ。
「資料を一部ずつ取って後ろに回して下さい」
学生部のナントカさんが指示する。長い机の左端から回ってきた資料を取り、右の端に座っていた俺は残りを後ろの列に渡す。
「あ」
先に声を上げたのは桐だった。
「ああ」
俺もその顔を認めて応えた。
「この間は、すみませんでした」
「ああ、うん」
桐は適当な返事をして、資料を左の人に渡す。
「僕は哲学科のキサラギヒサシ」
あまりにぶっきらぼうに言うものだから、それが桐の自己紹介だと理解するのにやや時間がかかった。
「法科の円」
資料に目を通しながら、桐はにやりとした。
「女の子みたいな名前だ」
「いや、苗字だからさ。名前は影月」
「武将みたい」
「格好良いだろ」
「変な奴」
「お前もな」
元は俺からだけど。それでも俺に話しかけて来るなんて。
「誰」
その肩を叩いて、顔を見て、俺は人違いだということにやっと気付いた。よくよく考えればすぐにわかることなのに。
「すみません、知ってる人だと思って」
「何かの勧誘」
桐は眠そうな目を俺に向ける。
「いや、本当に、ただの人違いで」
「ふうん」
そのまま欠伸をする。大講堂の前、古くて大きな桜の木が、澄んだ青空に薄紅の欠片を漂わせていた。
次に桐と会ったのは、何かのガイダンス、確か奨学金、の時だ。
「資料を一部ずつ取って後ろに回して下さい」
学生部のナントカさんが指示する。長い机の左端から回ってきた資料を取り、右の端に座っていた俺は残りを後ろの列に渡す。
「あ」
先に声を上げたのは桐だった。
「ああ」
俺もその顔を認めて応えた。
「この間は、すみませんでした」
「ああ、うん」
桐は適当な返事をして、資料を左の人に渡す。
「僕は哲学科のキサラギヒサシ」
あまりにぶっきらぼうに言うものだから、それが桐の自己紹介だと理解するのにやや時間がかかった。
「法科の円」
資料に目を通しながら、桐はにやりとした。
「女の子みたいな名前だ」
「いや、苗字だからさ。名前は影月」
「武将みたい」
「格好良いだろ」
「変な奴」
「お前もな」
元は俺からだけど。それでも俺に話しかけて来るなんて。