Toi et Moi

 閉店の時刻が近付き、客はまばらだ。空いたテーブルの上を拭き、端から掃除を始めていき、それとなく席を立つように客を促す。
「おい、桐」
 桐は資料に突っ伏してすうすう寝息を立てている。口が少し開いている。その下にある資料が濡れているかどうかなんて、俺には関係ない。
「影月君、上がっていいよ」
「あ、はい」
 十時。布巾と桐の使ったカップを持って、俺は仕事を切り上げる。

 着替えてホールに戻ると、残っている客は一人。その桐は眠そうに、心なしか困った顔で、片付けをしていた。隣でチーフがにこにこしながら見ている。
「ご苦労さま」
「お疲れさまです」
 チーフに挨拶すると、桐が何かをどんと俺に渡す。
「影月、これ持ってて」
 大学のロゴが入ったクラッチバッグはパンパンに膨れて、重い。返そうとしたら、そこに桐はいなかった。
「ほら影月君、シャッター下ろすよ」
「早くしろよ」
 桐が外で、うーんと伸びをしながら言う。悠長に。
 俺も外に出ると、待っていた店長がシャッターを下ろして施錠した。
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