Toi et Moi

 新入生向けの図書室利用説明も一段落した翌日、今年度最初の委員会があった。各クラスから二名ずつ、三十人の生徒の名前を呼んでいく。
「五組、タチバナミサキさん」
「はい」
「マドカカゲツグさん」
「お、よし、桂サン」
 影月は勢い良く立ち上がり、僕に意味深なアイコンタクトを送る。影月の行動にざわめく他の図書委員の方を向いて、言った。
「俺の名前を今度はちゃんと読めた桂サンに感動したので、」
 委員の生徒達は、桂って誰だよ、という顔をしている。雰囲気で僕の下の名前だと解ったようだ。影月はその間も一人喋っている。
「委員長は俺がやります。副委員長は」
 僕から委員名簿を奪う。どよめきが起こる。
「えっと二年一組の後藤」
 指名された生徒が一瞬嫌な顔をする。影月は笑った。
「そんな顔するなよ。俺、いつもヒマだから、毎日当番でも良いし」
 またどよめき。
「円君、それは」
 僕は意見しようとしたが、影月は聞かない。
「桂サン、うちの高校は部活バカが六割で毎日塾通いの勉強バカが三割八分。残りの二分が俺みたいなヒマでヒマで仕方がないヤツか、もしくは不登校。図書室に来る奴なんて希少生物だよ」
 僕は何か言おうとしたけれど、どれも上手い言葉になりそうにない。自分にもどかしさを感じながら事の成り行きを見守ると、影月はとうとう、
「当番は毎日俺がやるどうしても無理な時だけ後藤がやれその代わり蔵書点検は絶対全員集合来ない奴はどうなっても知らん」
 と言い切って、
「解散」
 と委員会を終わらせてしまった。今日やることは委員長と副委員長の選出だったので、各々解散して差し支えない。僕はそれをやっと、戸惑う生徒たちに話した。しばらくすれば残っているのは影月と後藤だけで、打ち解けている二人にカウンターのパソコンの使い方を教えた。そして後藤は部活へ行った。
「桂サン」
 影月は窓の外を見て言った。
「月が出ている」
 白い月を見る、その眼差しはどこまでも真っ直ぐで、影月らしくない、と思った。まだ影月のことを何も知らないのに。
< 3 / 24 >

この作品をシェア

pagetop