Toi et Moi
 影月は毎日昼の一時に司書室に来た。司書室と図書室は簡単なドアで続いている。影月は司書室からカウンターに入り、五限の始まる五分前に教室に戻り、四時にはまた司書室を通ってカウンターに着き、五時半に図書室の鍵を閉め、司書室でしばらく僕と話をして帰る。僕は別の仕事をしながら時折カウンターを覗く。影月は何か本を読みながら、滅多に人の来ない静かな図書室の主の地位に就いている。
 七月末ばまでに後藤がカウンターに座ったのは三日。影月に影月という名を与えてくれた影月のお祖父さんが六月の蒸し暑い日に亡くなり、そのために影月は三日間忌引した。
「残念だったね」
 影月の戻ってきた日。僕は何と声を掛けて良いのか解らず、何とか探した言葉がこれだった。だが、当の影月はふっと笑った。
「誰でも、いつかは死ぬんだからさ」
 少しやつれた顔に似合わず、そこに清々しさも湛えて。

 夏休みの課題である読書感想文の材料のために一年生が数十人図書室を訪れ、数十冊の貸出手続きをした以外、図書室が忙しいことはなかった。八月中旬の登校日がその本を返す日で、そして蔵書点検の日でもある。全ての本の所在をチェックする、図書室の一大イベントだ。そのために約四ヵ月ぶりに図書委員がきちんと全員集合した。
 監督に徹した影月の的確な指示のお陰で、蔵書点検は僕の予想の四分の一の時間で終わった。ついでに大掃除もしてもらって、僕は用意していたジュースを配り、その日もすぐに解散になった。
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