Toi et Moi
五時半という時刻に明かりが必要になる季節になった。運動場では夜間照明が乾いた光を投げて運動部を見張っている。その上に我関せずとぽっかり浮かぶ、日に日に肥えていく月を眺めながら、影月は月の兎について話した。
「だいたいさ」
冗談交じりに怒った顔を作る。
「飢えた爺さんを救うのに、何だって兎が火に身を投げるんだよ。そこまでしてくれたのに、何で爺さんは兎を喰わなかったんだよ」
影月の性格から来た感想だろう。影月は話を続ける。
「で、月に昇ってさ、どうして餅つきしているんだ」
と、外の月を指差した。明日は真ん丸になるその中で、二足立ちの兎が杵を持っている。
どうして餅をついているのか。僕は少し考える。
「食料の自給自足をしているんじゃないか」
「兎が餅を食べるのかよ」
「月の裏側に隠れてこっそり」
お互いにしばらく言葉を失った後、影月が吹き出した。僕も一緒に笑った。
「それは絶対ない。俺、いつだったか月の裏側の写真見たことあるけどさ、絶対兎はいない。ぼこぼこで表とは比べられないよ」
僕は月の裏側なんて知らない。そう答えていると、司書室の電話が鳴った。内線だ。
「じゃあ探しておくよ。またな桂」
影月は帰って行った。僕は返事をしながら電話を取る。校内電話だ。
「はい司書室です」
「あ、香山ですが、円はそこにいますか」
「たった今帰りました。まだ校舎内ですよ」
「捕まるかなあ、ああわかりました、有難うございました」
「はい」