Dear HERO[実話]
「タクシーで帰ればいいよ。俺払うから…」
「でも…」
「たっくん太っ腹~!」
突然横から飛んできた声に驚く。
小声で話したつもりが、樹の声は近くに座っていた友達にまで聞こえていたみたいだ。
「金は使うためにあるからね。俺ががんばって働けばいいからいいんですよ~」
「たっくん優しいなぁ…」
一人の女性が微笑みながらからかうように言う。
本当に優しい。
そこまでしてくれるなんて…
「どうするの?凛ちゃんどうやって帰るの?」
今の会話を聞いていなかったのか、カズがビールを片手に樹に聞いていた。
「タクシーで帰らせるよ」
「いいよ!バスとか電車あるし、それで帰るよ…」
当たり前のように言う樹の言葉を私は急いで遮った。
樹に迷惑をかけたくないと同時に、甘えてるとカズに思われたくなかった。