Dear HERO[実話]
「…さむっ……」
外に出るとまだ空は薄暗く、風は冷たい。
その冷たさが私の目をしっかりと覚めさせた。
手を上着の袖口に入れ、海を眺めた。
潮の匂いが鼻をかすめる。
…ザザー……
……ザザー……
聞こえてくるのは静寂の中に響く波の音。
その波の音は、とても寂しく聞こえる。
声を押し殺して泣いているような…
何でそんなふうに思ったんだろう。
「凛…」
声がしたほうを振り向くと真剣な顔して樹が歩いてきた。
「何やってんの?寒いだろ…」
目を覚ました樹は隣に私が居ないことに驚き、探しにきてくれた。
「目が覚めたからちょっと散歩…」
「散歩?ほら寒いだろ…戻るぞ…」
そう言ってポケットに手を入れて部屋に戻る樹の後ろを付いて行く。