Dear HERO[実話]
外の扉から部屋の入り口まで10m程の空間があった。
その間にトイレと、木で作られた机と椅子が置いてある。
トイレへ行った樹を木の椅子に座って待った。
部屋のほうを見ると何人かが起き始めているのが見える。
今、何時なんだろう……?
樹はトイレから出てくると、すぐ部屋には戻ろうとせず私の隣に腰掛けた。
机にもたれながら「ねみぃー」と言ってあくびをする。
そんな樹の姿が微笑ましく思えた。
少し話し、もう一度寝るために部屋へ戻ることにした。
椅子から立ち上がり樹を待っていると、突然私の手を掴み引き寄せてキスをした。
「………」
ちょうど柱の影になり、部屋の中にいる人たちから二人の姿は見えない。
そしてぎゅっと抱き締める。
いつも私を見守ってくれた。
抱き締めてくれた。
居場所を作ってくれたのに…
私があなたに返せたものは何もなかったと思う。