Dear HERO[実話]
テレビも点けずソファに一人座る。
少しでも寂しさを紛らわせたくて、樹が一緒に居てくれた数十分前を思い出していた。
一緒に食事をしながらする何でもない会話
数え切れないほどたくさん見せてくれる無邪気な笑顔
何も言わずただ優しく抱き締めてくれる力強い腕
思い出すだけで顔が綻んでくる。
~♪~♪~♪
しんっと静まり返る部屋に響く携帯の着信音で一瞬我に返った。
……樹くん?
なぜかそう確信してテーブルの上に置いていた携帯に手を伸ばす。
「………!」
しかし、急いで取った携帯に表示されていた名前は樹ではなかった。
そこに映し出される文字に戸惑いを隠せない。
【着信中 榊 龍斗】
それは…9ヶ月ぶりに見る名前。
樹と付き合い始めて一度も見ることのなかった名前。
……なんで…?
私は戸惑いながらも通話ボタンを押した。