Dear HERO[実話]


テレビも点けずソファに一人座る。

少しでも寂しさを紛らわせたくて、樹が一緒に居てくれた数十分前を思い出していた。


一緒に食事をしながらする何でもない会話

数え切れないほどたくさん見せてくれる無邪気な笑顔

何も言わずただ優しく抱き締めてくれる力強い腕


思い出すだけで顔が綻んでくる。



~♪~♪~♪


しんっと静まり返る部屋に響く携帯の着信音で一瞬我に返った。


……樹くん?



なぜかそう確信してテーブルの上に置いていた携帯に手を伸ばす。




「………!」



しかし、急いで取った携帯に表示されていた名前は樹ではなかった。

そこに映し出される文字に戸惑いを隠せない。




【着信中  榊 龍斗】


それは…9ヶ月ぶりに見る名前。

樹と付き合い始めて一度も見ることのなかった名前。



……なんで…?


私は戸惑いながらも通話ボタンを押した。

< 164 / 407 >

この作品をシェア

pagetop