Dear HERO[実話]
「凛の気持ちは何となく気付いてた。好きな人がいるなら仕方ない…」
樹が私の顔を見ることはなかった。
それからどれだけの時間が経ったのか…
10分?
それともほんの30秒?
私の目からはいつしか涙が溢れていた。
樹のことが好きなだけに、涙は止まることを知らない。
「……ごめんなさい…」
きっと樹はこんな言葉聞きたくなかったはず。
それでも私の口からは何度も同じ言葉が繰り返された。
「……がんばれよ」
私のほうを見ず、真っ直ぐと外を見ながら言う樹にただ頷くしかなかった。
震える手でドアを開け、車を降りる。
降りた瞬間、私が見た樹の表情は悔しさでいっぱいだった。
涙を堪えていることも分かった。
それでも樹は今までのように優しい目で手を振っていた。
私もそれに応えるように笑顔で手を振り返す。
泣いてはダメだ…
そう自分に言い聞かせて。