Dear HERO[実話]
結局何も借りず、ぐるぐると店内を回っただけで店を出た。
店から龍斗の家までは10分…。
冷たい風が吹く季節だったからエンジンはかけたままで車を停めた。
「凛、今度一緒にホラー見ようよ!」
ニコッと笑って、私がホラーが苦手なことを知っていてわざと言う。
「絶対にいや!」
からかう龍斗にいつものように返していた。
そのふざけあいが楽しかったから…
きっと龍斗も楽しんでたんだよね。
だから深い意味なんてなかったんだと思う。
でも…
「じゃあ、莢香と一緒に見ようかな…」
何気なく言った龍斗の一言。
「………」
返す言葉が出てこないと同時に信じられなかった。
冗談とはいえ莢香の名前を出すなんて…
すねて窓のほうを向いた。
龍斗もすぐに、余計なことを口走ったと気付いたのか慌てて機嫌をとろうとする。
「凛、ごめん…」
「……知らない…」
そう言って不機嫌な顔で窓の外を見る私の肩をそっと抱き寄せた。
龍斗の胸に頭をうずめる。