Dear HERO[実話]
「俺さ、学生の頃ずっと陸上してて結構いいところまでいってたんだ。俺にはそのとき陸上しかなくて…
オリンピックにも出れるとまで言われてたんだよね…」
「すごいね…」
ただの青春時代の話かなとこのときは思っていた。
「…うん。でも途中で怪我しちゃって、それが結構ひどくてさ。もう陸上はできないって言われたんだ。オリンピックどころか走ること自体諦めろって…」
「………」
昔、龍斗に聞いた話に似てる…
そう思いながら聞いていた。
「その時俺には陸上しかなかったからさ…もう陸上はできないって言われて…
気付いたら首吊ってた…」
「…えっ……」
何気なく聞いていた話にまさかそんな続きがあったとは思いもしなかった。
「もう何もないと思えたんだ。陸上がないなら生きてても仕方ないって…。死ぬつもりだったのに、運良くロープが切れて今こうしてここに居るんだけどね」
「………」
何も返す言葉が見つからなかった。
こんなとき何か言葉を伝えるとしたら何が言えるのだろう…
今こうして元気でいるからこそ話せるのだと奏汰は笑っていた。