Dear HERO[実話]
「嫌だ!!」
そう叫びたくても声にならない。
お酒が入って頭は朦朧としていた。
抵抗しても女の力なんて脆いもの…。
気付けば目からボロボロと涙がこぼれていた。
…お願い……
……放し…て……
怖くて怖くて頭の中が真っ白になる。
頬に伝う涙を見た男は手を止め、その場を離れると一人煙草に火をつけた。
よかった……
一気に恐怖から解放された安堵感で溢れた。
「…うっ……ひっ…ひっく……う…ぅ…はぁ……はぁ………」
呼吸を落ち着かせようとするが、頭の中が真っ白で呼吸の仕方さえも分からなくなっていた。
安心感のあとも目からは涙が流れ続ける…
そんなときも男は一度もこちらを見ようとはしない。
鼻をかすめる煙草の匂いと冷たい背中。
起き上がることもできない私はただただ何度も深呼吸をした。