やさしい手のひら・中編【完結】
私もきっと健太がそういうCMを撮ることになったら、いい気分ではないと思うし、健太の気持ちがよくわかる

「ご飯にしようね」

私は健太から離れ、キッチンの前に立っていると後ろに健太が立っていて

「早く結婚したい」

後ろから私を抱き締め、耳元でそう言った

「ごめんね。私が待たせてるんだよね」

私が保育士になるまで、私は健太を待たせてしまっている

「ずっと亜美といたい」

「うん、私も一緒にいたいよ。でも・・・」

「俺との幸せだけじゃだめなのか?結婚してからだって、資格は取れるんじゃないのか?」

その通りだった。今、結婚して短大に通うことだって出来る。でも私の中でそれは嫌だった。親とちゃんと卒業して資格を取るという約束でここに来たし、私のためにしてくれている親を思うと結婚は卒業してからにしたいと思っていた

「私もね・・・健太と結婚したいよ。でもね、今しか出来ないことをしたいし、親との約束もあるの。だから結婚は今は出来ない…」

「亜美がそう言うって、わかってた。わかってるけど、俺だけの物にしたいって思うんだ」

「うん。そう思ってくれて・・嬉しいよ」

どうしてなのか、健太の切なさが伝わってきて涙が溢れだす

「ほんと俺、わがまま」

今度は私が健太の手を前から握った

「私も健太も結婚は今じゃないと思うんだ。健太もまだこれからだし、もちろん私だってまだまだだし。私の中では結婚は健太しかいないから、それだけは信じて欲しいの。健太と結婚したくないって思ってる訳じゃないんだよ」

「わかってる」

わかってほしかった。今じゃないっていうことを・・・

私は健太の前に出て、

「あと1年半待ってくれる?」

「待つ。待たないと結婚できねぇもん」

「ごめんね」

私は健太の両頬を挟み、精一杯背伸びをして柔らかい健太の唇にキスをした

でもすぐに健太の両腕が私の腰に回り、健太は私に優しいキスをくれた

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