やさしい手のひら・中編【完結】
車に乗ってから健太の声など上の空で、何も話を聞いていなかった

「なあ?」

「えっ、うん?」

「具合悪いか?」

ハンドルから手を離し私の額を触り

「まだ熱あるな。コンビニ寄るけどプリン食べるか?」

「うん、食べる」

「よし、亜美は車で待ってろよ」

コンビニの駐車場に着き、健太は車から降りて行った

私は健太の後ろ姿を見ていた

健太、お腹に赤ちゃんがいるんだよ

私は心の中で叫んでいた

健太に話せないことが悲しくなり、喉の奥が痛くなり泣きそうになる

このことを言ったら健太は「産め」って言うのかもしれない

でも子供のために健太が何かを犠牲にしなくちゃいけなくなるんじゃないかって思ってしまうんだ

私はお腹を大事に押さえていた

母親になるという母性本能なのか、赤ちゃんを愛しく思う

この子を私は自らの手で殺してしまえるのか

そんな恐ろしいこと私にはできない・・・

健太に言ってしまえばきっと楽になれるのかもしれない・・・

でもやっぱり言えない

言いたいのに言えない。この板挟みに私は苦しむんだ
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