やさしい手のひら・中編【完結】
別れると自分で決めたのにどこかでまだ健太のことを諦めていない自分がいて、私は泣いてしまっていた

「自分で決めたことなのにさ・・いざ別れって言われたらなんだか悲しくなっちゃった」

笑って誤魔化しても心は嘘をつかない

「健太のことを考えるとね、ほんとはずっと一緒にいたい。大きくなるお腹をずっと見ていてほしい。赤ちゃんと一緒に傍にいてほしい。でもね・・健太の歌ってる姿を思い出すと私と赤ちゃんで縛らせてしまうのはだめなんだって・・・そう思って決めたのに・・・決めたのにまだそんなこと思ってて・・」

由里はソッと私の背中を擦りながら

「健太くんに妊娠のこと言ったら?健太くんなら亜美を受け止めてくれるよ。亜美のせいとか赤ちゃんのせいとか、健太くんそんなこと思わないよ。あんなに亜美のこと大切にしてるんだもん」

「由里・・・」

「こうやっと東京に来てやっと会えて、やっと幸せ掴んだのにまた手放すの?その前に健太くんは別れないっていうと思うよ。亜美がどうやって別れようとしているのかわからないけど、健太くんは納得いかないと思う」

由里のいう通り「別れよう」って言っても納得してくれないと思う。それはよくわかっている

「もうちょっと時間をおいて考えてみよう。私健太くんを失った亜美の姿見たくない」

私はうん、と頷いた

来週までもう一度考えて病院の先生に結論を出さないといけない・・・

由里も私も泣いたせいで鼻が真っ赤になっていて、お互いそれを見て笑った

由里の持ってきてくれたケーキを食べていると

「うっ」

吐き気に襲われキッチンへ急いで走った

つわりだ・・・

結局ケーキも途中のまま残し、ソファで落ち着きを取り戻し、由里が

「妊婦さんって大変なんだね」

「そうみたいだね・・・」

「でも産むって決めたんだから耐えなきゃね」

「そうだね」

「ちゃんとご飯食べて栄養とってよね」

「なんかつわりのせいで食べれないかも」

「わがままなお母さんだー」

由里はクスッと笑った
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