やさしい手のひら・中編【完結】
3人でタクシーに乗り、一番最初に由里が降り、次は私が降りる番だった

「クラス会来るんだろ?」

「うん」

「そっか。じゃ、クラス会でな」

私がタクシーから降りると凌がすぐに窓を開け

「あんまり無理するなよ」

「うん。気をつける」

「凌・・・ほんとにありがと」

「おぉ。寒いから早く中に入れ」

「うん」

凌は軽く手を上げ、タクシーは行ってしまった

私はタクシーが見えなくなってから、久しぶりに玄関のドアを開けた

「ただいま」

パタパタパタ

懐かしいお母さんのスリッパの音が奥から聞こえてきた

「亜美、おかえり」

目にいっぱい涙を溜めて私を出迎えてくれた

「お母さん、心配掛けてごめんね」

私の両手を握り締め

「元気でよかった」

私を怒ることはしなかった

「本郷くんね・・・俺が責任持って亜美を見ますから帰って下さいって言ってくれたの。お父さん仕事忙しくてね、本郷くんの言葉に甘えて帰って来たの。毎日、亜美の様子を電話で伝えてくれてたのよ」

そんなことがあったんだ・・・私はそんな凌の優しさに甘えていたんだね

「亜美が良くなったのは本郷くんのお陰よ」

「う・・・ん。私もそう思ってる」

「健太くんは?」

「年末は忙しくて電話でしかしゃべってないんだ・・・」

「仕事だもんね、仕方ないわね。今日もテレビ出るはずよ。ほら、寒いから中入りなさい」

私の鞄を持ち、お母さんは中に入って行った

ソファで新聞を読んでいるお父さんがいて

「お父さん・・・」

「体は大丈夫なのか?」

「うん」

「今回は残念だったな」

新聞を読んだままだったけど、お父さんの優しさが私には痛いほどわかった

「無理したらだめだぞ」

「うん」

「私着替えてくるね」

私は泣きそうになったので自分の部屋に上がってきた

誰も怒らず、誰も責めず。私はそんなお父さんとお母さんがやっぱり大好き

本当はもんくの一つでも言いたいのに、何も言わないで私に優しく声を掛けてくれた

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