やさしい手のひら・中編【完結】
佐原樹里は私を冷たい目で睨みながら見ている。でもその目は健太の位置からだと見えないだろう

「ねぇ誰?」

甘ったるい声で健太を呼ぶ

そして健太が答えようとしたけど、私が先に

「信じられない」

そう言って、玄関を飛び出し私は急いでエレベーターまで走った

ちょうど私が降りたあとのエレベーターがそのまま止まっていたので、すぐドアを閉め、何度も「閉」のボタンを押し続けた

なんのために私をここへ呼んだの?

来ることを知っていて呼んだの?

どうして、どうして?

でも見てしまったんだ。自分の目の前で健太が佐原樹里と抱き合っている所を・・・

嘘じゃない、現実なんだ

エレベーターのドアが開き、ここにはいたくないと思い必死になって走った

走って走って、走り続けて・・・

どこへ行けばいいのかわからないけど、とにかくあそこから逃げたかったんだ

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