やさしい手のひら・中編【完結】
このまま健太が来なかったら、私はまた流されて凌に抱かれていたのだろうか。抵抗しても凌の力に敵わなくて、流されていたかもしれない

さっきの凌は本当に怖かった。でも私の気持ちを取り戻すことに必死だったんだと思う。そうさせてしまったのは間違いなく私で、すべて原因は私なんだ

「もう考えるな」

健太はやっぱり私のことをなんでもわかっている

「亜美、風呂入っていい?」

「あっ、お湯貯めてあるよ」

「おいで」

私の手をグイッと引っ張った

「どこ行くの?」

「風呂こっち?」

お風呂場の方へ私を引っ張り

「一緒に入ろう」

「恥ずかしいよ」

「昔はいつも一緒に入ってたじゃん」

私と健太は一緒に住んでいた時、いつも一緒にお風呂に入っていた。でも2年も離れていたせいか私は恥ずかしかった

「早く」

「私が先に入るから健太は後から入って」

「わかった」

健太が後ろを向いてくれている隙に私は服を脱ぎ、急いで脱衣所から中へ入った

「あつーい」

お湯が少し熱すぎた

「亜美」

健太も入り後ろから昔のようにギュッと抱き締めてくれた

「ずっとこうしたかったんだ」

私も健太にこうしてもらいたかった。私は健太の手を自分の頬に持っていった

この手が恋しかった。この手を離したのは私で、またこの手を掴んだのも私

この手をまた離したら、もう本当に私の所には戻ってこない

そんな気がした

もう離せない。もう離さない

「亜美こっち向いて」

「うん?」

「これが幸せって言うんだよな。俺がいて、亜美がいる」

「うん」

健太がいることが嬉しかった。空港で会えなかったけど、会うことに時間が掛ったけど、今、健太は私の目の前で笑っている
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