やさしい手のひら・中編【完結】
「佐原の条件は…」

心臓がうるさいほど音を立てていた

「俺と亜美が別れて、自分と付き合うこと…そう言ったんだ」

私は手をギュッと強く握った

「そんなの無理に決まってるから俺ははっきり断った。そしたら、亜美が妊娠していたことも知っていて、俺の子なのに別の男が付き添いしていたとか言い出して、二股かけてるって。だからそのことを週刊誌に流してやるって。頭に来て殴ってやろうかと思った時、いきなり抱き付いてきて、そこで亜美が入って来たんだ」

私は悔し泣きをしていた。人の弱さを利用して、なんて卑怯なんだろう

「追い掛けようとしたら、今行ったらどうなるかわかるかって脅されて…」

私のことをなんて何を言われても平気なのに…

「亜美が絶対傷ついてるって、わかっているのに追い掛けることができなかった」

健太の声がだんだん小さくなって拳を強く握っていた

「私のことなんてどうでもいいのに・・・」

泣きながら健太に言うと

「もし亜美のことが週刊誌に書かかれたら亜美がもっと傷つくし、記者の奴らに追いかけられて・・・そんなこと俺が耐えれねーよ」

「どうして私のことを知っているの?」

「誰とでも寝て情報集めてるんだろ。あの女はそういう女だ」

「でも・・・でも・・・今までずっと一緒にいたんだよね・・・」

私は横にいる健太の顔を見た

「・・・亜美を守るにはそうするしかなかったんだ」

健太の優しさだってわかってるよ。でも・・・

「部屋に入ってなんとか説得してやっと帰らせてここに来たんだ。亜美のことが心配で・・・」

「でも・・・追い掛けてほしかった・・・よ」

追い掛けてくれたら私は新くんと・・・

「俺は週刊誌に何を書かれようがいい。でも亜美のことを書かれるのは絶対に嫌だった。だから佐原を納得させて、それからでも亜美はわかってくれると思ったから・・・」

「私・・・あの日」

健太が首を傾げて私の方を見た

「新くんと一緒にいたの・・・」

健太は「えっ?」と言う顔で私を直視した



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