やさしい手のひら・中編【完結】
「よし、いいわね」

さすがプロ。あっという間に違う顔の私になった

カジュアルがテーマということでTシャツ、ジーンズに取り替え、私はスタジオへ向かう

みんなに挨拶をしながら奥に進み、新くんに近づいた

さっきのことがあって俯きながら歩いていると

「何、暗い顔してんだよ」

「えっ・・・」

怒っていないの・・・?

いつもと変わらない笑顔を私に向けた

「ほら、今日もちゃんと仕事するぞ」

そう言って私の手首を掴んで歩き出した

私だけが意識しすぎ?新くんはなんとも思っていないことなの?

頭の中でいろいろと考えているとカメラマンから指示が出ていて

「お前、聞いてんの?」

「あっ・・ごめん」

すぐに気持ちを切り替えないとまた迷惑を掛けてしまう

とにかく仕事に集中して・・・

「新、腰に手回して」

言われた通り新くんが私の腰に手を回す。そして耳元で

「体固まってるぞ」

と、笑っている

「もぉー」

その隙にフラッシュが光る

あ・・私を笑わせるために言ってくれたんだ・・・

いろいろなポーズもなんとかこなし、休憩の合図でみんなスタジオの隅に寄って休んだ

「ほんとに大丈夫?」

田村さんが心配そうな顔で私に言った

「すいません、久しぶりなので緊張してました」

「さっきより顔色も良くなったね」

「もう、本当に大丈夫です」

水をもらい喉を通す

冷たくて目が覚める

仕事なんだから上の空ではいけない

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