やさしい手のひら・中編【完結】
「これから用事ある?」

携帯を出し時間を見てみた

健太がまだ帰る時間ではなかったので

「まだ大丈夫だけど・・・」

「少しだけ時間ちょうだい」

そう言って信号で止まっていた車をまた発進させた

どこへ行くのだろう

私はずっと窓から外を眺めていた

「あっ・・・」

あの景色がきれいな東京湾に来ていた

「久しぶりだろ」

「うん」

ここに来るのは、佐原樹里と健太が抱き合っていて、健太の家を飛び出して来た時以来だった

あの時より外は少し暖かくなっていて、今日の海はとても静かだった

やっぱりここに来ると落ち着ける

じっとして岸壁に波がぶつかる音を聞き、工場から出る排気の音を聞き、そして目の前に見える大都会東京を眺める

自分のちっぽけな存在がなんて未熟なんだろうと思わせる

健太ばかり見て、周りのことを見もしない。だから新くんのことも平気で傷つけてしまう

こんなんじゃいけない・・・

ここに来るとそう思わされる

もっと自分を見つめ直さなければ・・・・

「俺は亜美とキスしたことを後悔してないから」

海を見ながら新くんは呟いた

そうだ。私もそう思ってキスをしたんだ

絶対後悔しないと・・・

キスをしてしまったのは紛れもなく事実だから

「新くん・・・私キスしたこと後悔してた。でもそれはもう消すことなんて出来ないし、あの時は私も新くんとキスをしたいってそう思ったからしたの」

少し離れていた新くんがゆっくりと私の方へ歩いて来る

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