やさしい手のひら・中編【完結】
「亜美!」

誰かに呼ばれて私は周りをキョロキョロしながら後ろに振り向いた

「凌・・・」

お正月から会っていなかった凌が後ろに立っていた

「久しぶりだな」

「うん。元気だった?」

「元気だったよ。引っ越したんだって?」

「あ・・・うん」

きっと由里に聞いたのだろう。私が引越したことを知っていた

「調子は・・・どう?」

「あの時はありがとう。今はもう大丈夫」

「そっか」

クシャと凌が笑った。懐かしい笑い方・・・

半年会わなかっただけで、なんとなくまた凌が大人に見えてしまった。相変わらずきれいな顔・・・

ふと、凌と付き合っていれば、こんなに苦しい思いはしなかったのに・・・

そんなことを思ってしまった

「亜美」

「う、うん?」

「悩み事?」

「えっ?」

「いつもと違うから・・・なんかあったのかなって」

ギュツと胸が苦しくなって、鼻の奥が痛くなる

でも私は

「なんもないよ。いつもと変わらないよ」

なんとか笑って誤魔化した

「無理に笑ってるだろ?」

ジワッと目に涙が溜まってくるのが自分でもわかる

「ほんとに何も・・・ない」

言葉が詰まってうまくしゃべれない。でも弱い自分を見られたくなくて・・・

「じゃあ、私急いでいるから帰るね」

顔を見られないようにすぐ正面を見た

「川崎さんに言えないでいるんだろ?」

そう言われて私は足を止めてしまった。凌の優しさで私はもう涙を流していた

顔を何度も振って違うと否定した

「俺は話を聞いてやることも出来ないのか?」

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