やさしい手のひら・中編【完結】
「俺には言えないことか?」

「そ、そうじゃない」

新くんが悲しい顔をするから

「佐原樹里が…」

私は口に出してしまった

「佐原?佐原樹里か!?」

私はうん、と頷いた

「またあの女かよ」

私はマンションに佐原樹里が来たこと、あの夜佐原樹里から電話が来たことを新くんに話した

「亜美…別れろ」

「ど、どう…して…?」

「別れ」という言葉で涙腺がまた緩み出す

私にとって一番聞きたくない言葉だった

「やだ・・やだ・・・よ」

「たぶん、もう戻って」

「いや・・・そんなのいや!」

私は新くんの話を最後まで聞かなかった

「亜美・・・佐原と健太はもう・・・」

「や・・・めて」

聞きたくない・・・

そんなこと聞きたくないよ・・・

手で顔を覆いながら私は声を殺して泣いた

「亜美、いつものあそこ行くか?」

東京湾?

私はゆっくり新くんの顔を見ると

「行こう」

そう言って車のスピードを上げた

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