やさしい手のひら・中編【完結】
新くんの車の前まで行くと窓が開き

「遅い」

私は新くんの顔を見れずにいた

「乗ったら?」

「あ・・うん」

助手席のドアを開け、目を合わせないように外を見ていた

「ひどい顔」

と、新くんが笑いながら言った

「笑わなくてもいいじゃん」

私がふてくされながら言うと

「頑張ったんだよな」

そう言って私の頭を撫でた。その一言で私は張り詰めていた気持ちが押さえ切れず溢れ出してしまった

「泣きたいだけ泣けばいい」

悲鳴を上げていた心は優しい言葉に弱かった

私は誰かに慰めてもらいたかったのかもしれない

「グスン」

私が泣いている間、新くんは何も言わずにいた

車内は音楽と車のエンジンの音だけがして、声を出して泣いている私にはそれが救いだった

「泣き止んだ?」

うん、と頷くと

「お前の気持ちは言ったの?」

「うん・・・言ったけどだめだった・・・」

新くんはわかっていたかのように顔色を変えず運転をしていた

「そっか」

「うん・・・」

「人生いろいろだからな」

「プッ、何それ」

久しぶりに私は笑っていた

「今のお前に何を言っても無駄かもしれないけど。きっといつかいい思い出だったって思える日が来るから」

勝手にまた涙が零れる

「辛い時は俺を頼ればいい。話の一つぐらい聞いてやれるから」

「うん・・・」

辛いのは今だけよね・・・健太?

< 376 / 388 >

この作品をシェア

pagetop