やさしい手のひら・中編【完結】
マンションの玄関を出たけど、ここがどこなのか、まったくわからない。健太の電話に出れなかった悔しさと今自分がどこにいるのかという虚しさ。私はその場にしゃがみ込み泣いていた

「亜美」

後ろから新くんの声が聞こえて・・・

「ここどこぉ?」

私は泣きながら新くんに聞いた

「送ってく」

新くんは車のキーをすでに持っていて

「行こう」

と、腕を掴みマンションの裏へと入って行く

車のドアを開けてくれて

「乗って」

私はすぐに車に乗り、新くんのことを見ず携帯を握り締めていた

「ごめん」

エンジンを掛けたけど車は発進せず、まだ止まったままだった

「もういい」

私が言葉を発したあと、すぐ車を出発させた

なぜ着信を消したのか、私には新くんの気持ちなどまったくわからなかった

今日は何日だろ・・・?よく考えてみたら明日、健太は東京に帰って来るはず。でも何時に帰って来るのかなんて、わからない。電話に出ていたら・・・

私は車の窓から見える東京の街を眺めていた

「ここらへん?」

「次、右」

私は窓を見たまま、新くんが問い掛けてきたことに答えていた

「ここ。どうもありがとう」

私はドアを開けようとして体をドアに向けた時、新くんが後ろから私の肩を掴んだ

「待って」

私は首だけ振り向き新くんを見た

とても悲しい顔をしていて、思わず目を反らしてしまった

「ほんと悪かった」

「もう、ほんとにいいから」

済んでしまったことだし、新くんの顔を見ると、それ以上何も言えなかった

「じゃあ、私帰るね」

新くんはまだ私の肩から手をよけてくれず

「あの・・手が・・・」

「あっ、ごめん」

焦ったようにすぐ手をよけてくれた

「今日のデートはまた今度でいいから」

「今回の件と健太のことでデートはなしね」

私は笑いながら車を降りた

車の中にいる新くんに手を振って私は自分のマンションに入って行った

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