With a smile
橘さん親子はすぐに見つかった。

奥さんは海に向かって置かれたベンチに腰を下ろし、その側らでユージくんがバッタを捕まえようと必死になっていた。

「橘様、もうすぐキッチンの説明をしますので、是非見ていただきたいのですが」

「はい、・・・別にいいわ」

「アイランドタイプで広くて使いやすいんですよ。設備も・・・」

「いいのっ、主人が気に入れば。私は別に・・・」

一瞬声を荒げ、その後は消えそうなほど小さな声だった。

海風になびくストレートの黒髪の横顔には、寂しさが滲んでいる。

「お気に召しませんでしたか?」

「あ、いえ、・・・素敵だと思うわ。うん、とっても素敵」

取り繕うように作った笑顔が痛々しく映った。

そして言葉に詰まって立ちつくす私を見て、

「主人は気に入ったみたいだから買うと思うわ。だから大丈夫よ」

と他人事みたいに付け足した。

そりゃあ買ってもらえさえすれば会社としてはいいんだけど・・・。

私を追い払おうとしているのは分かったが、このままこの人を一人にしてはいけないような気がした。

そこでバッタを追いかけているユージくんよりもずっと子供、それも拗ねてる子みたいに見える。

私は隣にそっと座った。




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