With a smile
そんな仕事は楽しくて集中していたが、時折、パーテーション越しに建都さんの声が聞こえると、やっぱりそっちに全意識がいってしまう。

ハキハキしたしゃべり方、フロア中に響く笑い声。

一見今まで通り。

だけど、違う。

微妙な声のトーンや余韻、ホンの一瞬の間、呼吸・・・、姿を見なくても元気が無いのが手に取る様に分かってしまう。

こうやって聞き耳を立てることばっかりしてきたんだから、当然かもしれない。

カイさんの事は重役達が知っているんだから、建都さんも当然知っている。

それだけでも十分ショックなはずなのに、「仕事しかない」そう言った建都さんの仕事の不調が追い打ちを掛けている。

元気付けるなんて多分無理だけど、管理部にいない今の私には、仕事のサポートすら出来ない。

その歯がゆさと同時に、自分の立ち位置を再認識させられる。

ただの同僚から少しは近づいたつもりだった。

でもしょせんは、気付いてるって伝えられない距離。

建都さんが弱音を吐いてくれたら、ホンの一瞬でも辛い顔を見せてくれたら、すぐにでも何でもしてあげられるけど、いつもと同じ様に振舞う建都さんに親切面してなぐさめるなんて残酷だ。

結局何にも出来ない、それが私。

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