With a smile
坂道を下りきると目の前に海が現れ、やっと足を止めた。

上がった息を整える為に、なんとなく砂浜に座って海を眺めた。

ゆったりした波の音を聞いていると、少しずつ息も気持ちも落ち着いてくる。

「久しぶりに走ったけど、体なまってんなー」

右隣で足をグーで叩きながら、乾いた笑い声を上げた。

「大丈夫、ですか?」

「うん・・・。何となく分かってたし。あの人一応ウチの副社長の一人なんだぜ?」

あの人と言った建都さんのお母さんは、社内で一度も見た事は無いけれど、会社のパンフレットに写真が載っていたのをぼんやり思い出す。

「オヤジが社長でおふくろが副社長。ウチの家庭環境想像つく?よくあるやつだよ」

バカにした様な言い方に胸が痛くなる。

「小さい頃は家族で出掛けたりしてたけど、仕事が忙しくなると2人共家に帰って来なくなって、ほとんど一人暮らしみたいだった。たまに揃っても目も合わせないでさ」

低い声で静かに語った。

波の音だけが規則正しいリズムを刻んでいる。

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