ユールクラップの愛





あるとき、



『ハルちゃん、ユキ。ちょっと店番頼んでもいいかい?』




マスターが1時間くらい用事があるとのことで、店を任された。
そんなときに、私たちは気まずい中を何とか脱出しようと私たちはひたすらに話した。




『何で毎日ここに来てるの?』

『それは君にも言えたことだろう?』

『…家に居るとどうしても勉強ばかりだから…ここにいると、落ち着くから』

『なら俺も一緒』

『え?』

『俺も現実から逃げるため』

『…そっか』

『ここは、すごく落ち着くから』




それがきっかけで、私たちはよく話すようになった。

ただ“ハル”、“ユキ”と。
マスターが呼ぶ名前でだけのコミュニケーション。

どんなに入り組んだ話をしようと、どんなに関わりを持っても、彼のフルネームは知らないし、聞くこともなかった。

だから彼が、デビューしたあの日に、私は驚いた。





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