Murder a sponsor.
 クイクイ、と袖を引っ張られたためにそっちを見ると、両手いっぱいにパンを抱え込んだ琴音が嬉しそうに微笑んでいた。


「えへへ、いっぱいだよ」

「ああ。そうだな。そんなに食えるか?」

「食べれるよ!子供扱いしないでよねっ」

「ごめん、ごめん」


 ……琴音に、護身用とはいえ、包丁を持たせるべきなのだろうか。たとえそれが正当防衛だとしても、琴音はその傷付けた相手に対して罪悪感を抱くような子だから、自分を責めて追い込んでしまうのではないだろうか。

 いや、罪悪感を抱いたり自分を責めてしまうのは琴音だけじゃないのは分かっている。分かってはいるが、琴音の場合は人一倍に罪悪感を抱いたり、自分を責めて追い込んでしまうため、そう考えると余計に躊躇ってしまう。

 ……琴音に人を傷付けてほしくないっていえば、それは俺のわがままになってしまうのだろうか。自分のエゴを、押し付けてしまっていることになるのだろうか。

 でも、そんなことは言ってられない。それも分かっている。下手したら死ぬこの状況で、甘いことは言ってられない。


「……護身用の包丁……琴音も、持っておけよ」

「……、うん」


 琴音はこくんとうなずき、開けても安全だった引き出しの中から包丁を取り出した。それは小さめな包丁で、ナイフとしても見てとれるもの。小柄な琴音にはピッタリかもしれないな。

 俺を含めた他のみんなも、自分用の包丁とパンを手にする。みんなが先に給食室から出たのを確認すると、最後にもう1度だけ美智子さんたちを見たあと、俺は静かに給食室の扉を閉めたんだ。
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