Colors of Heart ~7色のハート~
むしろ本格的に筆を持ってキャンバスに向かう仕草に、立派な画家になったような気分になって楽しかった。
皿の上に無造作に置かれた果物を木炭でデッサンし、色を塗る。
油絵の独特な匂いも好きだったし、先生に誉められるととても嬉しかった。
僕はそうして絵を描く楽しさに目覚めていった。
「山村くん、何してるの?」
僕とは対照的に先生のもっさんに対する態度は冷たかった。
もっさんはキャンバスの前にじっとしていられなくて、周りの子にちょっかいを出す。
デッサンをせずにいきなり油絵のチューブを擦りつけ、筆を使わずに指で自由に描き出した。
「いい加減にしなさい!」
温厚で優しかった先生も最後には堪忍袋の緒が切れたみたいだ。
ある日いきなりもっさんに対して怒鳴り散らして、ついには破門にしてしまった。
画材セットを持って、絵画教室を後にするもっさんはいつもと変わらない表情でケロリとしていた。
絵画教室に残された、中途半端な絵。
その絵を眺めていた当時の僕は、彼がもの凄い才能を秘めていることに気が付かなかった。
もっさんが類まれなる才能を持つ男だと解ったのは、それから数年経った中学校の美術の授業でのことだった。
その日の授業の課題は名画の模写で、題材や画材は自由。
決められた時間割りの中で決められたサイズの1枚の絵を完成させるという内容だった。