アロマな君に恋をして

適度に具が柔らかくなったところで溶き卵をまわしかけ、仕上げ用の青ネギをかけて小さめの丼によそった。


それをお盆に乗せて寝室に戻るとベッドにいたはずの麦くんがドレッサーの前に立っているのが見えて、私は不思議に思いながらその背中に声を掛けた。


「……お粥、できたけど」

「あ、ありがとうございます。ねえ、なずなさん、これ……」


振り向いた彼の手には、精油の小瓶。近づいてラベルを覗き込むと、そこに書かれた文字は“ylang ylang”


「そ、それは……」


別に普通にしていればいいのに、オーナーや緒方さんに言われたことが頭を駆け巡り、あからさまにどもってしまった私。

ついでにきっと顔も赤くなってるんだろう。


「新品っぽいですけど、いつ買ったんですか?」

「……買ったんじゃないの。もらったの」

「ふうん……なんでまだ使ってないんですか?」

「……え、だって使うなら麦くんの家に行ったときにしようと……」


私が言うと、急に黙ってしまった麦くん。

私、もしかして……いや、もしかしなくても変なこと言ったかも……


手に持ったお盆の丼から立ち上る湯気のせいで、彼の表情はよく見えなかった。


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