アロマな君に恋をして
いつまでも黙ったままの私にうんざりしたのか、麦くんが大きなため息をひとつ吐いた。
「……ねぇなずなさん、こっちに来て?」
けれど私を呼ぶその声は穏やかで、顔を上げると彼はいつもの微笑みで私を手招きしていた。
じりじりと近寄っていくと、彼の熱い手が私の手を握る。
「……なずなさん、もしかして不安だったの?こないだ俺が抱かなかったから」
手を繋いでいると、言葉が喉の奥からするりとこぼれる。
こんなことができるの、きっと麦くんだけだ。
「……男は気持ちが通じ合ったその日に抱き合いたいものだって、ある人に言われて……
それから何か、自信がなくなっちゃったの。
麦くんにとって、私ってそういう魅力ないのかなって」
「……誰ですかそんなこと言ったの」
「……お店のオーナー。先週初めて会ったの」
「オーナー……男ですか?歳は?」
「うん。男の人で歳は30代半ばかなぁ……どうして?」
私が尋ねると、急に強い力で腕を引かれて私は麦くんの胸に倒れ込んでしまった。
「麦くん……?」