アロマな君に恋をして
「……もしも、少しも反対したり引き留めたりされなかったら、悲しすぎるから……だから、言えないんです」
私は麦くんによって、愛されることがどんなに幸せかを思い出してしまった。
ずっとそのあたたかさに守られていたいと思うのは、いけないことなの――?
「……理想の恋人同士とはかけ離れた関係だね」
呆れたように、オーナーが言った。
「放っておいて下さい……オーナーには関係ないじゃないですか」
「……そうかな?僕はそうは思わないけど」
「え……?」
「二人の絆に綻びがあるなら、そこを狙わない手はない。恋愛の定石でしょ?」
恋愛?定石?
オーナーは何を言っているの?
怪訝な顔をする私に、不敵な笑みで近づいてくるオーナー。
何となく逃げた方がいい気がして、一歩後ろに踏み出した足が椅子に引っ掛かって私はよろけた。
「わ」
「――――危ない!」
尻餅をつくことを覚悟していたのに、痛いのはお尻じゃなく……強く引かれた腕だった。
そして体が行き着いた先は堅い床じゃなく……
「……間一髪」
何故かスパイシーな香りのする、オーナーの腕の中だった。