アロマな君に恋をして
不意に、後頭部が解放されたような感覚がした。
髪をまとめてたゴムが外されたんだと気づいた時には、オーナーの顔が間近に迫っていた。
「……やっぱり。髪型も化粧もわざと色気のないようにしてるけど、素材はなかなかいい」
「いや、髪もメイクも下手なだけで別にわざとそうしているわけじゃ……っていうか近いです!離れて下さい!!」
彼を睨みながら叫ぶと、意外にもあっさりと腕の力は緩められた。
私はずざざ、とオーナーから距離を取り、椅子の背もたれに掛けてあったエプロンをひっ掴むと、扉を開けながら言う。
「休憩、緒方さんと交代ですから失礼します!」
返事を待たずにバタンと扉を閉め、売り場に駆けていくと緒方さんが不思議そうに私を見た。
「――あれ?なずなちゃんさっきまで髪下ろしてなかったよね?」
「……あ」
ゴム、返してもらうの忘れた……
もう今日はいいや。あの場所に戻る勇気なんてないし。
「もしかして……オーナー?」
「お、緒方さん、どうして……」
「だって彼なずなちゃんのことかなり気に入ってるみたいだもの。……まさか、麦くんより先にオーナーと……?」
「そっ、そんなわけないじゃないですか!!」