アロマな君に恋をして
なずなさんは、俺が帰宅してから二十分後くらいにアパートに来た。
玄関を開けて出迎えると、ほっぺたと鼻の頭を赤くした彼女が息を切らせて立っていた。
「……もしかして、走って来たんですか?」
「だって……なんか麦くん変だったから、心配で……」
そう言って俺を見つめたなずなさん。
仕事終わりで疲れてるだろうし泊まるための荷物だってあるから重いはずなのに、俺のために走ってくれたんだと思うと、胸の奥に甘い痛みを感じた。
俺は彼女の手から鞄を受け取ると、それを廊下に置いて玄関先でなずなさんを抱き締めた。
「……麦くん?」
「なずなさん……どこにも行かないよね?」
「どうしたの、急に。私、ここにいるよ……?」
「でも……誘われてるんでしょ?イギリス」
腕の中のなずなさんが、微かに震えた。そして顔を上げると驚いたような表情で俺を見た。
「……そのこと、どうして……」
「……中で話しましょうか。寒いし」
自分から言い出したものの、すぐに結論を聞くのが怖くて時間稼ぎをする俺。
リビングのソファになずなさんを座らせると、自分はキッチンに立ち二人分の紅茶を入れた。
そしてようやくカップをテーブルに置くと、なずなさんの隣に腰を下ろす。
「――なずなさんのとこのオーナーが、今日俺の店に来たよ」