アロマな君に恋をして
カップに手を伸ばそうとしていたなずなさんの動きが止まった。
俺は彼女の方を見ずに、話しを続ける。
「カフェの話……可能性がゼロになったってわけじゃなかったんですね。ゼロどころか、あの人と一緒にイギリスで勉強すれば、なずなさんの夢は叶う」
「……私は、もう何度も断ってるの。オーナーがなかなか諦めてくれないだけで」
「なずなさんはそれでいいの……?」
本心では行ってほしくないと思っているくせに、素直にそれを言えない俺。
勇気を出して、なずなさんの方に顔を向ける。
彼女は怒っているのか悲しいのかわからないけれど、とにかく濡れた瞳で俺を見ていた。
それを見た途端に、彼女を傷つけてしまったのではないかと不安になった。
「……麦くんは、私と離れたいの……?」
「そんなわけ……」
「じゃあいいじゃない。この話はもうこれでおしまい。今まで黙ってたのは悪いと思ってる。だけど、こんな風にあなたに心配かけると思ったから言わなかったの。
オーナーにも言っておくね?麦くんの店まで行くなんて、やりすぎだし迷惑ですって」
「……言わなくて、いい」
なずなさんと徳永さんが話すところを想像した俺の中にたちまち嫉妬の炎が燃え上がり、気が付けばなずなさんの身体を自分の方へ引き寄せていた。
その髪の甘い香りを嗅いでいると、話すどころか近づかないでほしい……そんな極端な思いまで沸き上がる。
「……やばい、なずなさん、俺」
いつでもなずなさんを支えられる優しい男でありたいと、常々思っているのに。
今の俺ときたら、余裕なんてまるでない、ただのわがままな年下男だ。